今 月 の こ と ば
2019年02月
カ シ の 木 と モ ミ の 木

 ルーマニアの森の中央に、威厳に満ちた姿をしたカシの木がありました。このカシの木はいつも自分の自慢ばかりして、他の木々を軽蔑していました。カシの木は自分だけが立派だと自惚れて叫んでいました。森の木々はカシの木を恐れ、遠く離れた所に立っていました。ある日のこと、カシの木のすぐそばで小さなモミの木が生まれました。それを見てカシの木は驕って言いました。「ようこそ、ちびっ子ちゃん。私は森の重鎮のカシの木だ。君よりも森の事を良く知っているので、私の勧めに従えば、いつか私のように立派な木になることができよう」。モミの木は返答し「ぼくはあなたのような立派な風采をしていませんし、力もありません。おまけに、ぼくの葉は尖っていて棘があり、あなたのような美しい葉ではありません」。モミの木は悲しそうに言いました。「その通りだ。誰も私の美しさを越えることはできない。しかし、私の賢い勧めに従えば君もきっと自分を養い強めることができるのだ」。カシの木は偉そうに言いました。「ぼくに必要なものを、なぜご存知なのですか。お互いの気質は全く違っているのに…」とモミの木が不思議そうに尋ねました。「そんなことは問題にならん。とにかく、私の勧めを聞けば君は立派なモミの木になれるのだ」とカシの木は断言しました。「そんなの無理、無理…。あなたは季節ごとに葉の色を変えますが、ぼくは一年中緑のままです。あなたはたくさんのどんぐりの実で森の動物たちを養うことができますが、ぼくはマツの木のようにマツカサを結ぶことすらできません」。そうモミの木は答えました。

 小さなモミの木が、カシの木の意見を断ってしまったのを目にし、カシの木は頭のてっぺんから足の根の先まで身震いし始めました。毎日まいにち「ぼくはあなたと違う。」、「あなたを真似ることはできない!」、「ぼくにとって必要な物は何であるかをあなたは知らない…」、「無理なことは無理だ!」などとモミの木に言い続けられたのです。おかげでカシの木は自分が侮辱されていると思い込むようになりました。段々と自分に自信を失っていったのです。というのも、モミの木は他の木々たちとは違って、カシの木を否定する事をまったく恐れていなかったからです。今まで自信満々で傲慢であったカシの木も、段々弱くなってしまいました。威厳に満ちた姿が、いつの間にか醜くなってきました。その上、カシの木の立派な葉を秋の風が奪ってしまいました。生き生きとした緑の葉を保っているモミの木の前で、葉が無くなり裸になったカシの木はとても恥ずかしい思いをしていました。遠くに離れていた木々たちも葉を失いましたが、カシの木に励ましの言葉をかけました。「あなたは一人ではないですよ。見てごらんなさい。私たちも皆あなたと同じように葉が落ちて裸になってしまいました。私たちはすべての葉を失いましたが、春がすぐ来るという希望を失っていません。さあ、一緒に春になるまで頑張りましょう」。そう優しく誘いました。モミの木も他の木々たちと一緒に声を合わせカシの木に言いました。「ぼくはあなたとは違うけれども、あなたを尊敬し大切に思っています。あなたが幹だけになり裸になっても、あなたはぼくにとって必要です。あなたの太くて強い幹が、ぼくを風から守ってくれているからです。あなたはぼくがいつも同じ緑の姿で暮らすのが羨ましいと思っているでしょうが、あなたは春になるとまた美しい葉が出て立派な姿になりますよ」。そう励ましの言葉をモミの木が言いました。「そう、その通りだ! さあ一緒に頑張りましょう…」森の木々たちも声を一つにして大きな声で叫びました。

 冬の間にカシの木は自分への自惚れの状態を捨てて、回心と謙遜の衣を着ました。次第に希望で満たされたカシの木は、モミの木の慰めと励ましの言葉を素直に受けとるようになりました。そして春の季節が戻ってきた時、カシの木はすっかり生まれ変わりました。森の木々やモミの木の中で、もはや支配する者ではなく、周りの皆を愛する親しい仲間となりました。この友情のお陰でカシの木はもう一度美しい威厳のある木となり、周りの木々を新しい眼差しで見るようになりました。その時からルーマニアの森は魅力的になったそうです。

 私たち一人ひとりは、他の人と比べることのできない独自の特徴を持っています。生まれた場所、言葉、文化、知識、歴史が違っても、それを自慢せずに分かち合えば人生が楽しくなります。「互いに愛し合いなさい」(ヨハネ15,12)とイエスは勧めました。謙遜に希望をもって、この世界の人々を批判せずに見てみましょう。そして今年も、季節ごとに新しい気持ちと決意で、皆の幸せのために励まし合って頑張りましょう。


                主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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