今 月 の こ と ば
2019年01月
隠 遁 者 と イ ノ シ シ

 昔アイルランドの森に隠遁者が住んでいました。彼は大自然と動物たちをとても愛していました。動物たちもこの隠遁者が好きになり、彼のそばに静かに集まることが習慣になりました。毎日隠遁者を養うために、鶉(うずら)、雉(きじ)、烏(からす)など色々な鳥たちがパンや野菜や果物、必要な食べ物を運んでいました。これには理由があります。ある日隠遁者が十字架の形に腕を伸ばし、祈りながら立っていた時のことです。一羽の鶉が彼の手の中に卵を産みました。隠遁者は卵が孵化するまでずっと動かずに、腕の位置を保ちました。その日以来、鳥たちの群れは、この隠遁者の世話をしようと決めました。他にも病気の動物たちや傷ついた動物たちは、癒してもらうために隠遁者のそばに集まって来ました。
 人里離れ、朝から晩まで神に祈りながら動物に囲まれていたので、隠遁者はまるでアダムとエバのエデンの園にいるような感じがしていました。彼が住んでいる場所は、景色の綺麗なところです。山と湖が広がっています。彼は高い木と小さな川がそばを流れている洞窟を自分の住む場所に決めました。その洞窟で祈りに満ちた孤独な生活を送ることこそが、この隠遁者の幸せでした。

 ある日、野生のイノシシが隠遁者の洞窟に逃げ込んできました。犬の群れと狩人に追いかけられているようでした。殺されることを恐れたイノシシは、震えながら鳴き声で隠遁者に助けを懇願しました。すると、イノシシを追いかけていた犬の群れは、突然洞窟の前に立ち止り、横たわったままで動くことができなくなりました。なぜなら、隠遁者の祈りが力強く働いたからです。しかし狩人は、イノシシを狩ることを諦めませんでした。狩人は、銃に弾丸を装填(そうてん)しました。それを目にした隠遁者は「直ぐ止めなさい。さもないと酷い目に合うでしょう!」と叫びました。狩人が振り向くと、隠遁者の周りには数え切れないほどのスズメバチが集まっていました。隠遁者が自分と犬の群れを攻撃する準備をしていると分かり、狩人は呆然としました。恐れを感じて、犬の群れと共に逃げていきました。野生のイノシシの命は救われました。感謝の念を示すために、イノシシは隠遁者のそばで暮らすことにしました。鳥たちのやり方を真似て、イノシシは森のキノコ、栗、胡桃(くるみ)、他の食べ物などを季節ごとに隠遁者のところまで運びました。

 イノシシは隠遁者が生きている間、ずっと彼の世話をし続け、彼を守りました。隠遁者が亡くなった時には、イノシシは彼の墓を掘りました。その後、イノシシは死ぬまで墓の番人をしていました。今ではイノシシの子孫が墓を守っています。また、現在でもあらゆる種類の動物たちの墓参りは続き、隠遁者が眠る場所を花で飾り続けていると言われています。

 今年はイノシシの年です。イノシシは司祭職のシンボルです。洗礼によって司祭職に与かっている皆さんが、大自然の美しさ、動物が与える喜びや楽しい付き合いを実感できるように、また何よりもまず祈りの力と神への委ねを再発見できるようにしたいと思います。そのためには、日常生活の忙しさの中で、『神のためにだけの時間』を作るように工夫し、祈りが与える神との親密な交わりと一致を深く味わいましょう。祈りは宇宙万物と調和の中に人を一つに集めます。ですから物語の隠遁者を真似て、キリスト者の司祭職を尽くし、人々や動物をも助け、大自然を尊重し、すべてを美しくする福音的な生き方によって、神と人々の喜びの泉となりましょう。このようにすれば、今年こそ聖なる年となるに違いありません。


                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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