今 月 の こ と ば
2018年12月
人 間 の 神 性

 昔、全ての人間は神のようであったとインドの古い伝説は語っています。しかし、人間は自分たちが持っていた神性を悪用にばかり使いました。それに我慢できなくなったブラーマ神は、人間から神性を奪い取り、絶対に見つけられない場所に隠そうと決心しました。ブラーマ神は、すべての神々に「その隠し場所について意見を出すように」という命令を出し、会議を招集しました。しかし、集まった神々の意見は、なかなか一致しませんでした。

 デュルガ神は「人間が持っていた神性を、地球の暗い洞窟の土に隠そう」と言いました。それに対して「ダメだ。人間は物好きで、探すことが好きなので、いつかその洞窟を見つけて土を掘ってしまう」とシヴァ神が反論しました。「それなら、海の一番深い淵に隠してはどうでしょう」とカリ神が提案しました。この提案に対しガネシュ神は「それもダメ、ダメ。いずれ人間は湖だけでなく、すべての海洋を探検するでしょう。ですからそんなところに隠しても簡単に見つけ出してしまうはずだ」と答えました。「それでは、一番高い山の頂上はどうでしょうか」とラクミッシュ神が勧めました。「それもダメだ。人間はなんでもできるし、チャレンジするのが好きだから、そこも直ぐに見つけてしまうよ」とスリヤ神が否定しました。

 しばらく神々は何も言わず、重い沈黙が続きました。すると、クリシュナ神が次のような提案を出しました。「土も、海の水もダメなら、空はどうでしょうか。人間の手が届かないところ、例えば月の何処かに隠したらいいんじゃないでしょうか」。しかし、カリ神が「それも絶対にダメです。人間は賢すぎて、きっと月に行く方法を考え出し、月の表面を歩くようになるでしょう」そう言って激しく反論しました。議論を聞いていた神々の悩みは、ますます深くなりました。

 ガンガ神は、ため息混じりに「やはり、人間の神性を隠すための安全な場所など何処にもありません。人間にその神性を返す他に方法がありませんねぇ…」と言いました。するとブラーマ神も賛同して「そうだ、そうしよう。人間が探さない場所がある。それは人間の心の奥底だよ。人間は自分の心の奥底を決して調べない。だからそこに神性を隠そう」と言いました。それを聞いたすべての神々は、全員一致してこの提案に賛成し大喜びしました。

 インドの古い伝説によると、神々が人間の心の奥底に神性を隠したその時から、人間はそれを見つけるために地球の洞窟を調べたり、高い山に登ったり、海の深い淵を探査したり、月の表面を歩いたりしたそうです。しかし今に至るまで、自分の心の奥底に隠されている神性を見つけ出すことはできなかったそうです。

 シラ書はこの伝説に似ている話を紹介しています。神の知恵(神性)は天空を巡り歩き、地下の海の深みを歩き回ったが、何処へ行っても憩いの場所を見つけなかった。だから、神は人の中に住むように命令しました(参照:シラ書24,1-12)。確かに、聖書は創世記の時から神が人間にご自分の息吹を与えられたことを教えています。ですから、私たちは神性が何処にあるのかよく解かっています。私たちの人性と神性は真の神であり、真の完全な人間である「キリストと共に神の内に隠されている」(コロサイ3,3)ことを知っています。私たちの人性はキリストに結ばれているので、私たちはイエスの神性に与るようになりました。クリスマスを祝う私たちは、この神秘を思い起こしながら、神に感謝しましょう。言葉と行いによって、私たちに与えられたその神性を大勢の人に示しましょう。
 

                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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