今 月 の こ と ば
2018年10月
王 様 の 後 継 者

 年老いた王には子供がありませんでした。そこで、自分の後継者になるのに相応しい人を見つけるために、次のようなことを考えました。王は王国のすべての青年たちを宮殿の広間に集め、彼らに色々な試練を与えたのです。大勢の青年がいましたが、その中で後継者に相応しいと認められたのはたった10人でした。その10人の青年に最後の試練を王が与えました。彼らの手に一粒(ひとつぶ)の小さなトウモロコシの種を渡したのです。「この国は、農業によって栄えている。私の後継者になりたい者は、土を耕すことや野菜を育てることを知るべきである。それゆえ、お前たちはこの種を家に持って帰り、植木鉢に植え、世話をせよ。3週間後に、芽を出したトウモロコシの苗を私に見せよ。一番上手(うま)くトウモロコシの種を育てた者を私の後継者としよう。」と王は説明しました。

 10人の青年たちは家に帰り、言われた通り植木鉢にトウモロコシの種を植えました。ところが、ある青年はいくら丁寧に種の世話をしても、トウモロコシの芽が出てきませんでした。それを見ていた近所の友だちが、「芽が出ないのはきっとこの種が悪いからじゃないかい。トウモロコシの種はみんな似ているから、他の種と変えても誰も分からないだろう。」と不正をすることを勧めました。しかし、この青年は正直だったので、友だちの言うことに耳を傾けませんでした。「王様が私にくださったのと違う種を育てるなら、私は王様を騙すことになります。3週間後にどうなるかは分かりませんが、私は王様からもらった種を育て続けます。」と青年はきっぱり言いました。

 3週間後、10人の青年たちは宮殿に集まりました。青年たちのうち9人は、芽の出ているトウモロコシの苗を自慢しながら王様に見せました。王は頭を振りながらトウモロコシの苗をゆっくり見回しました。「これらは私がお前たちに与えたトウモロコシの種を育てて出た芽か?」と王様が聞くと、9人の青年たちは「はい、そうです。王様。」と答えました。王様は10番目の青年のところにやって来ました。ところが、この青年はただ土を入れた植木鉢だけを持っていたので、恥ずかしくなって震えていました。きっと王様は怒って、自分を宮殿の牢屋に入れるだろうと思っていたからです。「お前は私が与えた種を、どのように育てたのか?」と王様が尋ねると「僕は、毎日、丁寧に世話をして、肥料を与え、よい空気に当たるようにしましたが、このトウモロコシの種はなかなか芽を出しませんでした。」と青年は震えながら答えました。そう聞いた王様は、右の手を高く上げ、王国の民に暫く静かにするように言いました。

 「王国の民よ。ここに皆(みな)に相応しい次の王がいらっしゃる。私は10人の青年に茹でたトウモロコシの種を与えたのだ。この種からは絶対に芽は出てこないはずだ。ところが、この9人の青年たちは、他の種と入れ替えて私を騙そうとした。彼らは王になるには相応しくない。王に必要なのは実直さと誠実さである。王は真理に基づいて国を支配すべき存在であるからだ。この青年は王に必要な実直さと誠実さを持っている。したがって、私の後継者に選び、皆の王になる事をここに決定する。この喜びを大いに祝おうではないか。」と王様は断言しました。誰が王になるか首を長くして待っていた国民は、選ばれた青年に温かい握手で祝意を表しました。
「目的は手段を正当化する」と言われています。この世で成功するために人々は、実直さと誠実さを無視する傾向を持っています。「正直な人は幸せを継ぐ」(参照:箴言28,10)、また「正義は正しい道を歩む人を守る」(箴言13,6)と箴言が教えています。「目的は手段を正当化する」と思って人を騙す人は、結局自分自身を騙し軽んじています。洗礼によって真理の霊を受けた私たちは、模範的な者として正直に生き、誠実に行い生きていきましょう。 

                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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