今 月 の こ と ば
2018年06月
奇跡の話

−その1−

 パリの大聖堂の広場。有名になることを夢みている若い歌手が、小さな演奏会を無料で開いていました。ギターの音に合わせて歌い始めると、すぐに大勢の人が集まりました。若い歌手の歌を群衆は静かに聞き始めました。数分も歌っていないうちに、ある男性が大聖堂の門の上を指差しながら叫びました。「見よ、聖母マリアが泣いている!」すると群衆は一斉に聖母像を見上げました。「本当だ、マリア様が泣いている」、「奇跡だ!」、「信じられない」。人々は声を上げました。驚いてあっけにとられていた人々の中には、この出来事を忘れないように写真を撮り、マリア様に拍手を送る人もいました。若い歌手は自分の演奏と歌が、マリア様の心を揺り動かしたと思い、とても幸せでした。

 一週間後、若い歌手はもう一度パリの大聖堂の広場で新しい演奏会を開こうとしました。しかし、彼が演奏を始める前のことです。門の上の聖母マリア像の腕に抱かれた、幼いイエスが立ち上がって大声で叫びました。「どうぞ、お願いです。歌わないでください。先週あなたの演奏と歌を聞いてお母さんが泣きました。あなたの歌はあまりにも調子外れだからです」と。

 勿論、この物語は作り話です。神の栄光を歌う人が調子外れに歌っても、神の心を揺り動かすのです。神に歌われる賛美と感謝の歌は、必ず変容された状態で神に届きます。そして、歌った人も美しくされます。ですから皆様、遠慮なくありのままの声で神の賛美を歌ってください。もし、聖母マリアが涙を流すなら、それはきっと喜びの涙で


―その2―

 ある町に5歳の少年がいました。少年は神様にキスしたいと強く望んでいました。ある日、家の近くの公園へ行きました。長いすに座って鳩にパンくずを与えているお婆さんの姿を見て、少年は足を止めました。少年はお婆さんをよく観察してから、近寄って訪ねました。「お婆さん、いま何時ですか。お母さんが遅くまで外で遊ばないようにと言っていますので…」と丁寧に尋ねました。お婆さんは少年を見つめて優しく微笑みながら、時間を教えてくれました。お婆さんの優しさに憧れた少年はこう言いました。「お願いがあります。あなたにキスしてもいいですか?」お婆さんは快く「はい。いいですよ」と言いながら少年のキスを受け、彼を強く抱きしめました。

  少年は家に帰るとすぐに「お母さん、僕は神様と会って、抱きしめられたんだよ。神様にキスもしたんだ」と言いました。お婆さんも、自分の家に帰りました。お母さんに会いに来ていた息子が待っていました。「お母さん、今日はどうしてそんなに幸せそうにしているのですか? とても輝いているね」と息子が尋ねました。「今日ね、奇跡が起きたの。公園の長いすに座り、いつものように鳩にパンくずを与えていると、神様が私に近寄って来て、微笑んで私にキスをしたの」お婆さんは嬉しそうに話しました。

  「私たちが人にしたことは神ご自身にしたことである」ことを忘れないようにしましょう(参照:マタイ25,40)。さらに、私たちが子供たちのようにならなければ、天の国に入ることが難しい(参照:マタイ18,3) ことも思い起こしましょうね。
の・役に立つもの・値打ちのあるものを選んで賢明に人に与えましょう。

                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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