今 月 の こ と ば
2018年03月
黒い風船

 アメリカに住んでいる黒人の子供マブラは、小学校の同級生の白人の子供からいじめの言葉を浴びせかけられていました。「君はぼくたちと違う。ぼくたちと競い合っても貧しい君は絶対に勝つことができないさ」、「君の安っぽい靴じゃ、速く走ってもぼくたちに勝つことなんて無理だ」、「とにかく、君は低いレベルに生まれたから、努力しても偉い立場に立つことなんか無理なんだよ」と白人の子供たちが言うのが習慣でした。

 ある日のこと、町を歩いていたマブラは風船売りのおじいさんと出会いました。マブラの目は、色とりどりの風船を見て輝きました。おじいさんの持つ風船の中に、一つだけ真っ黒な風船がありました。黒い風船を驚きの目で見つめているマブラを見て、おじいさんは彼に尋ねました。「坊や、この風船が欲しいのかい?」マブラは「いいえ、お金がないから…」と答えました。「おじいさん、知りたいことがあるんだけど。この黒い風船も空に放したら他の風船と同じように空に高く昇っていくのかな?」とマブラは尋ねました。

 この質問を聞いたおじいさんは、即座にこのマブラがいじめられていると感じました。そこで、おじいさんはマブラを自分の椅子に座らせて「さぁ、坊や、よくご覧なさい」おじいさんはそう言うと、手に持っていたすべての風船を手から放しました。すると風船は、あっと言う間にぶどうの房のような形をしながら、空に向って昇っていきました。白い風船も、赤い風船も、もちろん黒い風船も、風に運ばれるまま、それぞれの風船は、とても高いところまで昇っていきます。目では見えなくなるまで、高く昇っていきました。

 「見たかい?」おじいさんは尋ねました。「うん、見ました。よく分かりました。黒い風船も他の風船と同じように、空に高く昇ることができました。おじいさん、ありがとう」とニコニコしてマブラは答えました。

 「そうかい、黒い風船も他の色の風船と同じように上へと昇ることが分かったんだね。それでいい。今、私が君に教えることをよく覚えておきなさい。風船は人間と同じなんだよ。色の違いや大きさの差ではなく心の中にあるものが大切なんだ。私の風船は、どんな色でも同じ空気で膨らんでいる。ただし、たくさんの空気を入れた風船は、他の風船よりも速く高く空に昇るんだ。同じように、いっぱいの優しさや寛大さで満たされた心を持っている人は、他の人よりも優れたことがたくさんできるんだよ。黒人であろうと白人であろうと、心の豊かな人はこの世界に役に立つとても偉い人なんだ。君はそんな豊かな心を持っていると、私は信じているよ」風船売りのおじいさんはマブラに語りかけました。

 「わたしは人間が見るようには見ない。人は目に映ることを見るが、わたしは心によって見る」(サムエル記上16,7)と神は教えています。ですから、自分の建前と本音を一致させ、差別的な態度を捨て、自分の言葉や考えや行いを愛と慈しみでいっぱいにしましょう。人を喜ばせましょう。そうすれば、風船売りのおじいさんが空に放った風船のように彩り豊かな人生を送ることができるはずです。

                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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