今 月 の こ と ば
2018年01月
狡賢い鷺(さぎ)

   あるところに1羽の鷺がいました。小さな湖のそばで暮らしていた鷺は、歳を重ねるうちに食べたい魚を取ることが難しくなってきました。何日も餌にありつけず飢え死にすることがないよう色々と考えているうちに、鷺に良い考えが閃きました。この湖に友だちの賢い蟹が住んでいました。鷺は絶望的な顔をしながら、友だちの蟹に次のように言いました。「困ったなぁ。困ったなぁ。何か恐ろしいことが近いうちに起こるそうですよ」「えっ、なに、なに。それはなに?!」と心配して蟹は尋ねました。「今朝、散歩をしている時に人間の話を耳にしました。彼らの話によると、雨が降らないので今年のうちにこの湖の水が無くなって干上がるらしいですよ。もしかすると完全に干上がるには、数年かかるかも知れませんが…。とにかく、この湖が干上がれば、ここに住むすべての生き物が死ぬに違いありません」と心配そうに鷺は蟹に話しました。

  この話を聞いた蟹は、湖の魚たちに今聞いた話を聞かせました。当然、魚たちは大きなパニック状態に陥りました。「死にたくない、助けてくれ、どうしたらよいでしょうか」と魚たちは叫びました。「この湖から随分離れたところに、もっと大きな湖があります。もし、皆がよければ、年寄りから順番に若者まで一人ずつその大きな湖へ僕が君たちを運んであげるよ。そうすれば君たちは長く生きることができるよ」と、狡賢い鷺は大きな湖へ移ることを魚たちに勧めました。皆で相談した上で、魚たちは鷺の提案に賛成しました。

  そして毎日、朝・昼・晩と鷺は、一匹の魚を口ばしの中に入れて大きな湖に飛んで行きました。しかし彼は新しい湖に魚を運ぶのではなく、口ばしの中の魚を空中から大きな岩にわざと落として殺しました。そしてゆっくり降りて行き、その魚を美味しく食べたのです。食べた食事を消化するために少し昼寝をしてから、鷺は湖に戻って次の食事の準備をしました。「先に運んだ魚たちはとても幸せにしています。あの湖は深く、水もとても綺麗です。先に行った魚たちは、あなた方が来るのを待ち望んでいますよ」と鷺は言いました。それを聞いて、疑うことを知らない魚たちは鷺をすっかり信頼してしまいました。自分たちを救うために働いてくれる鷺に感謝の言葉を言いながら、安心して移動するために鷺の口ばしの中に、毎日毎日、自分たちから入りました。

 一年後、あの賢い蟹は大きな湖から戻ってきた鷺に尋ねました。「殆どの魚たちが移動しましたので、そろそろ私の番だろうと思います。お願いします、私も大きな湖に運んでください」と願いました。狡賢い鷺は「今まで、魚ばかり食べていた。蟹の肉はとても上手いと聞いている。そうだ、今日私はメニューを変えよう」と考えました。そして狡賢い鷺は、今日は賢い蟹を運ぶことに決めました。しかしこの賢い蟹はとても重くて体が大きかったので、口ばしで運ぶのは無理でした。そこで蟹は自分で鷺の背中に乗りました。鷺は蟹を背中に乗せた状態で空を飛んで行きました。暫く行くと蟹は「大きな湖までの旅は長いですか」と聞きました。すると狡賢い鷺は「いいえ、長くないですよ。私は湖まであなたを運びませんから。あの魚たちにしたのと同じように、あなたをあの大きな岩に落として殺すつもりです。それからあなたを食べますから」と笑いながら答えたのです。すると蟹は背中から「そういうことは、あり得ません」そう言うと自分の大きくて強いハサミで鷺の首を絞めました。無理やりもとの湖に戻らせ、地上に降りてからハサミで鷺を殺しました。

 「偽預言者を警戒しなさい。彼らは羊の皮を身にまとってあなたがたのところに来るが、その内側は貪欲な狼である」(マタイ7,15)、「惑わされないように気をつけなさい。また、彼らについてはならない」(参照:ルカ21,8)と主イエスは忠告しました。現代社会における一つの悲劇は、人々の約束はすべて実現されず、彼らの行いは約束の逆を行うということです。というのは、政治家のスピーチの公約・メディアの賢い説明・商売の宣伝の誘い・今年の占いなどすべて怪しいものですが、容易に私たちはこれらを信じてしまう危険性があります。私たちを騙している人々を殺す必要はありませんが、せめて彼らの狡賢い危ない誘いを未然に潰すようにしましょう。

                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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