今 月 の こ と ば
2017年09月
報酬

 
アラビアのある有名な金持ちは、非常にケチで嘘つきで知られていました。ある時、彼が市場へ行った時に、500枚のディナール金貨を入れた革の財布をどこかで落としてしまいました。落とした財布のことが気になり、そわそわと落ち着かない彼は泣き叫びながら市場のあらゆる所で自分の財布を一生懸命に探しました。「あの金(かね)  がなければ死んでもいい、この世は地獄だ」と喚(わめ)きながら絶望の底に落ちたこのケチな金持ちは「私の革の財布を見つけて、持って来てくれた人に100枚のディナール金貨を報酬として与える」と、大声で約束しました。

  金持ちがあちらこちら財布を探して走り回っている時に、一人の青年が革の財布を持って、手を高く伸ばして見せながら金持ちに近寄りました。するとケチな金持ちは突然「これは私のものだ。返せ」と叫び、青年の手から財布を奪って、その財布に何度もキスをしてから、急いでその中身を確かめ始めました。「あぁ、救われた」と言いながら、笑い泣きをしながら金持ちは500枚のディナール金貨を数えました。ディナール金貨は500枚きっちりありました。しかし、このケチな金持ちは「この青年に約束の100枚のディナール金貨を報酬として渡すよりも、片方の目を失う方がましだ」と考えました。そして自分の金を何回も数えてから、「変だ。この革の財布の中には600枚のディナール金貨が入っていた。しかし、ここには500枚しかない。100枚足りない。きっと君が約束の100枚のディナール金貨を先に取ったに違いない。これで、私はあなたに対して借りはありません」と、ケチな金持ちは嘘をつきました。そして財布を自分のポケットに入れました。

  「いいえ、ぼくは、なにも取っていません」と青年は誓い「約束の報酬を与えてください」と叫びました。議論が白熱して群衆が段々集まって来たので、ケチな金持ちは「この青年は既に自分の報酬を取った」と言い続け、青年は「いいえ、それは嘘だ」と答え、結局、結論がつかず裁判官の所へ行くことになりました。群衆に囲まれて二人は順番に裁判官に事情を説明しました。裁判官はケチな金持ちの嘘つきな評判と、この青年が真面目で、正直な人であることを知って、二人のそれぞれの弁明を聞いてから次のように判断を下しました。

  「この案件の解決はとても簡単です。この金持ちの話によると、失われた革の財布には600枚のディナール金貨が入っていました。そして、この青年の証しによれば、見つけた革の財布は開けずにそのまま渡しました。金持ちは何回も数えましたが、金貨は500枚しかありませんでした。ですから、見つけた財布は、この金持ちの物ではありません。なので、青年よ、この国の法律によれば、今からこの500枚の金貨の入った財布はあなたの物になります。そして、金持ちであるあなたは、失った自分の革の財布を探し続けなさい」。それを聞いた群衆は大喜びで拍手をしました。

  私は物を失った時に、いつも静かにパドバの聖アントニオの助けを願います。教会博士である聖アントニオは謙遜によく働き、5分経たないうちに失われたものを見つけるようにさせます。聖アントニオは報酬を願いません。ただ彼の助けが神に栄光を与えるように、そして私たちは神に感謝するように、それしか望みません。聖アントニオの模範に従って私たちも人々の助けと同時に神に感謝と栄光を与える人になりましょう。

                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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