今 月 の こ と ば
2016年11月
祈りの力

 あるレジャー用の船が急に襲ってきた強い嵐で遭難しました。子供の時から親しい友であった二人の男性は、必死に泳いで無人島に辿り着きました。神に祈る以外になにもできなかった彼らは、助けを得るためにどちらの祈りがより強く効果的であるかを知るために、無人島を二つの領土に分轄しました。お互いに自分の住む場所(領土)から離れないことを誓ってから、二人はまず食べ物を見つけることができるように神に祈り始めました。

 次の朝、自分の領土を散策していたA さんは、美味しい果物が沖からたくさん流れ着いているのを見つけました。その果物は1個食べるとお腹が満腹になりました。しかし、無人島の反対側の領土に住んでいるBさんは、食べ物を何も見つけることが出来ず、お腹がペコペコにすいていました。しかし、そのことを知っていた彼の親友のAさんは、自分の領土にたくさん流れ着いた果物を、彼に分け与えませんでした。それでも何も文句を言わずに、Bさんは祈り続けました。

 暫くしてから、一人ぼっちになることを酷く嫌うAさんは、自分に従う可愛い犬を与えられるように神に祈りました。不思議なことに、次の日、新しい嵐で他の船が沈みました。その時一匹の可愛い犬が、無人島のAさんの領土まで泳ぎ着くことができました。そんな時、何も食べずに、疲れ果てているBさんは、それでも自分の領土で一人きりで、諦めずに祈り続けました。

 自分の祈りは聞き入れられると思ったAさんは、今度は自分の可愛い犬と幸せに暮らせるように、神に一軒の小さな家と新しい服とたくさんの食べ物を願いました。次の朝、目を覚ますと、昨夜祈って願ったものはすべて自分の前にありました。しかし、無人島の反対側に住んでいるBさんは、一人ぼっちで飢え死にしそうな状態で、服がボロボロになり、それでも島の岸の砂の上に横たわって祈り続けていました。それを見たAさんは、親友のBさんを可哀想だとも思わず、救いの手も出さず、一言も話もせず、全く無関心で何もしませんでした。それどころか、可愛い犬と自分は一日も早くこの島から離れられるように神に願いました。何時間もたたないうちに、あるクルージング船が無人島のAさんの領土に辿り着きました。

 早速、Aさんと可愛い犬はBさんのことなどすっかり忘れて、船に乗ろうとした丁度その時、天から声が聞こえました。「どうしてあなたの友をこの無人島に残すのですか」と。「彼の祈りが役に立たないからです。この島にいた時にご存じのように、彼は祈ってもあなたから何も受けませんでした。きっと彼は呪っているでしょう。私は願ったことを全部手に入れたので、祈りの結果は私だけのものです。Bさんと受けたものを分かち合う必要はありません」とAさんは答えました。すると「あなたは間違っています。あなたの親友のBさんは、ただ一つの願いを私に捧げました。その願いを私は豊かにずっと叶えたので、あなたは恵まれました」。それを聞いたAさんは「私がこんなに祝福された者となるために、いったいBさんは何を願いましたか」と聞き返しました。「Bさんは自分の為には何も願いませんでした。むしろ、あなたの祈りがすべて叶えられるように、慈しみの心で彼はずっと私に願いました。この祈り方こそ、真(まこと)の友情の証拠です。さあ、あなたの命を救った親友のBさんを早く呼んで、一緒にこのクルージング船で家に帰りなさい」と神は言いました。

 私たちは誰かが私たちのために祈っているということを忘れているので、受けた神の祝福と恵みは自分たちの苦労と祈りの結果だと思い込んでいます。世界中に居るカルメル会のシスターたちをはじめ、見知らぬ信仰の兄弟姉妹、また天使の群れと聖人たちは、絶えず神の前で聖母マリアとイエスと共に、私たちのために執り成し、恵みと祝福を願っています。ですから、私たちの祈りも、大勢の人を幸せな人とするように努めましょう。「聖徒の交わり」の神秘に私たちの信仰の根を深く下ろして、普遍的な祈りによって、地の果ての人々まで安全と喜びと平和と幸せを運びましょう。「どのような時にも、聖霊に助けられて祈り、願い求め、すべての人々のために、絶えず目を覚まして根気よく祈り続けなさい」(参照:エフェソ6,18)。 


                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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