今 月 の こ と ば
2016年10月
フォークのなぞ 

 病気の最終局面にあったある婦人が、残された命は数日しかないと知っていましたので、病者の秘蹟を受けるために自分の主任司祭を呼びました。塗油式を受けた直ぐ後、婦人は自分の葬儀について考えた様々なことを神父に説明し始めました。つまり、葬儀ミサの時に読むべき聖書の箇所、歌って欲しい聖歌、自分が着たい白い衣服、花の種類などについて、彼女は細かく説明しました。そして最後に彼女は非常に不思議な願いを加えました。「私を棺に入れる時に、このロザリオを私の首にかけてください。そして、左の手には私の聖書、右の手には必ず一本のフォークを持たせてください。これが私の遺言です」と。

 それを聞いた神父は非常に驚きました。「どうして、あなたの手に一本のフォークを持たせる必要があるのですか」と神父は尋ねました。「驚かれましたか。私は教会のパーティー、結婚式の披露宴、学校の同窓会の集まりなど、色々な集まりに参加しました。どの集まりでも食事が終わる時に、いつも誰かが次のように勧めました『あなたのフォークをしっかりと持ってください。なぜなら、もっとも素晴らしいことや一番良いものが直ぐにくるからです。それはチョコレートパフェなのか、クリームタルトなのか、バニラアイスクリームなのか、どんなデザートかは分かりません。とにかく素晴らしいデザートが出てきますので、あなたのフォークをずっと握ってください』と。ですから、神父様、私の葬儀で棺の中にフォークを持っている私を見て、きっと皆があなたに『このフォークは何ですか…』と質問するでしょう。その時、次のように答えてください。『あなた方も自分のフォークをしっかりと持ち続けてください。最も素晴らしいことや一番良いものが直ぐくるからです』と」。

 神父は溢れる涙をぬぐいながら、彼女に最後の祝福を与えて教会に戻りました。その二日後、彼女は主の下(もと)に召されました。葬儀の日に主任司祭は彼女の遺言の通りに行いました。白い服を着ている彼女の首にロザリオをかけ、左の手には聖書を持たせ、右の手には銀のフォークを持たせました。棺の前で花を捧げた皆が、主任司祭に同じ質問をしましたので、霊柩車に彼女の遺体を運ぶ前に、司祭は彼女が生前に彼に頼んだ、なぜフォークを持っているのか、という話を打ち明けました。「彼女は天の国で最も素晴らしいことや一番良いものが、自分を待っているという事実をよく知っていた人でした。あなた方もこの大切なことをよく覚えてください。この世の様々な人生の楽しいこと、悲しいこと、耐え難いことの後に、必ず最も素晴らしいことや一番良いものがあることを絶対に忘れないように」と、主任司祭は葬儀の参加者に勧めました。

 「上にあるものに心を留め、地上のものに心を引かれないようにしなさい」(コロサイ3,2)と聖パウロも私たちに勧めています。私たちは地上のものの虜になりがちで、またそれで満足してしまいます。ですから、最も素晴らしい霊的なもの、神がくださる一番良いものを捜し求めることを忘れてしまいます。ですから忘れないように、ミサに与るたびに、自分のフォークを持つというのはどうでしょう。 この世を去る時、より素晴らしい世界が私たちを待っていることを思い、その世界に入る準備を整えるように私たちも自分のポケット、あるいは自分のハンドバッグの中に一本のフォークを持つようにしたら良いのではないでしょうか。なぜなら、神の国では素晴らしい宴会が私たちのために準備されているからです。「さあ、いただきます」と言うために、用意のできた賢い人、信仰の内に目覚めている人となりましょう。

                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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