今 月 の こ と ば
2016年07月
ヤゴ(トンボの幼虫)の物語

 ご存じのようにヤゴは三年間、池の底で成長し、やがて水から出て陸に上がって羽化し立派なトンボになります。北九州の田舎のある古い池の底でヤゴたちが「成長して蓮の茎に登ったすべてのヤゴたちは、水面に出るとどうして誰もこの池の中に戻らないのか」について、激しく討論していました。しかし結局誰も納得のいく説明ができませんでした。そこで皆で話し合って、今度成長して外の世界に行くヤゴは、外の様子を皆に説明するために必ず池に戻るという約束を、皆が一致して決めました。
ある日、一匹のヤゴが、成長して蓮の茎を登って、池の水面に出る時期になりました。 このヤゴは「待っててね。 僕は必ず戻って来ますので…」と、皆に約束しました。池の水面に出ると、このヤゴは外の様子と景色をよく見るために、蓮の葉っぱの上で少し休むことにしました。すると、このヤゴの体に思いがけない変化が始まりました。知らず知らずの内に、自分の丸々としていた醜い体は長くて細いとても美しい形になり、透明の洒落た四枚の綺麗な羽が生え、軽さと速さをその体に与えました。太陽の光線を浴びながら美しい姿に変化したトンボは、直ぐに自分の約束を果たそうとしました。

 しかし残念なことに、それは全くできませんでした。池の水面の上を跳ぶことができ、水面下にたくさんのヤゴを見つけることができても、このトンボは自分の新しい体では、池の水の中にもう一度入ることができませんでした。そのうえ「水の下にいるヤゴたちが、新たにされた自分の体を見ても、その姿は前の姿とまったく違うので、自分が彼らの仲間だということを誰も信じないだろう」とこのトンボは理解しました。そして自分の先輩たちがしたように、このトンボも新しい生き方を味わうために自由の世界へ飛んでいきました。

 ヤゴたちが自分たちの未来を知らなくても、私たちは自分の将来をよく知っています。 なぜなら、神であり人間になったイエスはたくさんのイメージを使いながら、それをよく説明して下さいましたから。また、罪と死に打ち勝った御自分の復活によって、イエスはそれを証ししました。実に、栄光の体を受けるために、私たちもいつかこの世から出なければなりません。神の愛の光線が私たちに与える復活の体を受けた人々は、この世に残っている家族や親戚や友だちを見ても、もはや彼らと話し合うことはできません。だからと言って、この世から出て亡くなった人を、私たちにはもう見えないので、彼らは存在しないと考えてはなりません。神は私たちのために、新しい天と新しい地を準備しておられます。それについては、黙示録が啓示しています。「わたしは新しい天と新しい地を見た。最初の天と最初の地は去って行き…最初のものは過ぎ去ったからである」(参照:黙示録21,1-4)と。

 ですから、今の自分の体について、悩んだり心配する必要がありません。 肥った体、痩せた体、若い体、年老いた体、不自由な体もこの世から出て、必ず栄光ある神の愛の美しさをもつ体に変容するからです。「キリストは、わたしたちの卑しい体を、御自分の栄光ある体と同じ形に変えてくださるのです」(フィリピ3,21)。


                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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