今 月 の こ と ば
2015年8月
十一頭のロバ

 ロバの群れを持っているある年寄りは、それを遺産として自分の三人の子供たちに譲ることに決めました。彼の遺言によると、長男はロバの群れの半分を受け、二男はその群れの四分の一を受け、三男は群れの六分の一を受け、残るロバがあればそれは神様の分です。やがて父は亡くなりその死後すぐに、三人の兄弟は集まって遺産の分け前の計算をしました。

 しかし、計算の結果は、この三人の兄弟を戸惑わせました。と言うのは、長男は群れの半分、つまり11÷2=5.5頭のロバを受け、二男は群れの四分の一、つまり11÷4=2.75頭のロバを受け、三男は群れの六分の一、つまり11÷6=1.83頭のロバを受けることになるからです。さらに、神様の分け前は残りの0.92頭のロバでした。彼らが神の取り分を外して、群れの数を10頭、9頭、8頭にして計算してみても、父の遺言通りの遺産分割はできませんでした。天国へ行った父の遺言を全く実現できないことがわかるいと、三人の兄弟は腹を立て喧嘩を始めました。三人兄弟の雰囲気がとても悪くなったので、長男は隣の教会の神父に父の遺言の問題を相談することに決めました。その神父は賢明な勧めを与える人として有名で、皆によく知られていたからです。

 事情を聴いた神父は、遺産問題の解決のために一頭の自分のロバを三人の兄弟に与えようと考えました。「きっと、このロバが役に立つでしょう。ですから、あなたがたに差し上げましょう。しかし、このロバがあなた方に必要でなくなったら、必ず私に返してください」と、神父は優しく言いました。長男はすぐ十一頭のロバの群れに神父からもらった一頭のロバを加えました。こうしてロバの数は12頭になりました。長男はもう一度、兄弟三人で分け前の計算をしました。すると、なんと今度は、すべて上手くいきました。長男は群れの半部、つまり12÷2=6頭のロバを受け、二男は群れの四分の一つまり12 4=3頭のロバを受け、三男は群れの六分の一つまり12÷6=2頭のロバを受けました。 結局、この三人の兄弟は父の遺言の通り6+3+2=11頭のロバを分けることに成功しました。そして、不思議なことに神の分け前である一頭のロバが残っていました。長男は、このロバを神父に返しながら「やはり、このロバは全く役に立ちませんでした。神父様がおっしゃったように、必要ではなくなったのでお返しします」と言いました。それぞれが父からの遺産の分け前をもらって、三人の兄弟は仲直りしました。神父のロバのお蔭で彼らの間に平和が戻りました。

 この物語の神父のロバのように、無償で与えられている神の恵みも役に立たないと思う人がいます。しかし、この恵みがなければ、人は次々と解決できない問題とぶつかります。それでも、その日その日のために与えられている、あの神父のロバのように、神の恵みは人々を仲直りさせ、平和をもたらし、安定した未来を開きます。思いがけない時に無償で与えられる神の恵みの名は「摂理」です。神の摂理は日常生活を楽にし、知らない内に私たちに幸せの道を開きます。ですから、神の慈しみに対して無関心な人にならないために、「神が与えて下さったすべての恵みに、わたしはどのようにこたえようか」(詩編 116・12)という、 詩編の質問に具体的に答えましょう。

                         主任司祭 グイノ・ジェラール神父
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