今 月 の こ と ば
2014年12月
個性が起こす問題

 ある日、大工職人が留守をした時に、彼の仕事場の全ての道具たちが大切な会議を開くために作業台に集まりました。 会議の題は、「道具の共同体の中から待遇改善のために誰を追い出すべきかについて」でした。 ひそひそ話が長く続いて、そのうち声が大きく激しくなり、荒々しくなってきました。

 そこである道具が鋸(のこぎり)婦人を指さして次のように訴えました。 「耳障りなゴリゴリと言う音を立てるこの鋸夫人をすぐ追い出してください。 彼女は鋭い歯で木を噛む時に歯ぎしりをします。 おまけに彼女の性格は気難し過ぎます」と。すると、他の道具も同じように他の道具を責め始めました。 「私たちの間で断定的な態度を示すのはあの先輩鉋(かんな)さんです。 彼が動くと、あっと言う間に木を削ってたくさんの木くずを作り、そして何でも平らにしてしまいます」と。 すぐ他の道具が「いいえ、追い出すべきはこの金槌(かなづち)君です。 彼はとても騒がしいので私は頭が痛いです。

 彼のトントンと打つ音は頭にくるし、神経を苛立たせます。 もう我慢できません。彼を是非、追い出してください」。 他の道具が叫びました、「釘の兄弟たちについてどう思いますか。 彼らはとても気難しく、何でも刺し傷つきますので、この釘の兄弟たちと共に生きることが出来るでしょうか。 どこかへ消えて欲しいです」と。 「そうであれば、スライサー穣とその仲間たちの鑢(やすり)やサンドペーパーも一緒に出て行って貰ったらどうだ」ともう一つの道具が苦痛を訴えました。 「彼らは絶え間なく周りを摩擦して擦(こす)る音を出します、私は精神的にもう耐えられません」。 すると堰を切ったように次々に、釘抜きはドライバーを批判し、螺子釘(ねじくぎ)たちはモンキースパナの悪口を言い、三角定規は万力(まんりき)を侮辱しました。 とうとう巻尺と鑿(のみ)は殴り合を始めましたので、彼らを落ち着かせて別々にする必要がありました。

 大工職人の道具たちが、他の道具の意見を聞かずに自分勝手に大きな声で自分の意見を言い張ったので、会議は大混乱に陥りました。 金槌(かなづち)君は鋸(のこぎり)婦人と争い、釘の兄弟たちはスライサー穣と論争し、とうとう道具の共同体は一致を失ってしまいました。 結局会議の終わりには、全ての道具が互いに互いを批判し追い出そうとしました。

 ちょうどその時、大工職人が帰って来る足音が聞こえました。 すると、素早く道具たちは自分の場所に戻って、静かになりました。 大工職人は作業台に近寄り、一枚の板を取って耳障りな音を立てる鋸(のこぎり)婦人でこの木の板を切りました。 そして削ってたくさんの木くずを作る鉋(かんな)先輩さんがこの板を綺麗に削りました。 その後、大工職人は数日間掛けて何でも刺す釘の兄弟たちや、頭にくる騒がしい音を出す金槌(かなづち)君や擦(こす)れる音を出すスライサー穣など、喧嘩を止めない気難しい道具の共同体の全ての道具たちを使って作業をしました。そして、大工職人は生まれた幼子の命を見守る為の立派な揺りかごを作りました。

 私たち一人ひとりは完璧ではありません。 皆それぞれ自分の欠点、過ち、癖、性格の特徴が目立ちます。 また自分の存在はある人にとっては迷惑です。 しかし私たちは神にとって救いの計画のための必要な道具です。 使徒パウロが教えているように、各自は互いにキリストの体の部分です。 「目が手に向かって『お前は要らない』とは言えず、また、頭が足に向かって『お前たちは要らない』とも言えません。 それどころか、体の中でほかよりも弱く見える部分が、かえって必要なのです…あなたかたはキリストの体であり、また、一人一人はその部分です」(1コリント12,21-22、27)。 私たちの弱さ、不完全さ、短所、未完成で気難しい性格にも拘らず、キリストの栄光ある体となる為に、神は私たちを家族として、あるいは共同体として集めました。 一緒に暮らす必要性を改めて深く考え、神への愛と隣人への愛の掟を実践しましょう。 そして近づいて来るクリスマスには皆で一緒に、幼子イエスの命を見守る美しい揺りかごのようになりましょう。

                          主任司祭 グイノ ・ ジェラール神父
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