今 月 の こ と ば
2014年11月

三つのフィルター

 イタリアの小さな村で、噂話や悪口が大好きな人がいて、毎日あちらこちらで、誰かに嘘や出鱈目をまき散らし、言いまわっていました。 人を騙したり、怒らせたりすることや色々な悪戯(いたずら)をすることは、彼のお気入りの活動でした。 村の人々は彼に「腹黒い狸」と言うあだ名をつけ、出来るだけ彼を避けようとしていました。 それにも拘らず次々と皆が彼の悪口の餌食となっていました。 ある日「腹黒い狸」は、村の近くにある山の麓の洞窟に住んでいる年寄りの隠遁者の所に行って、悪さをすることにしました。

 「こんにちは、お邪魔します。 是非、今日は、あなたに面白いことを伝えなければなりません。」と「腹黒い狸」が言い始めると、彼の悪戯な性格と悪才ぶりを知っていた隠遁者は、直ぐに「ストップ」と叫びました。 「あなたが私に言う前に、言いたい事を三つのフィルターにかけてみましたか?」と隠遁者が聞くと、腹黒い狸は「えっ? なんですか? その三つのフィルターと言うのは?」と、戸惑いながら質問しました。 「はい、友よ。 あなたの話を私に話す前に今から言う三つのフィルターに入れなければなりません。 先ず、第一のフィルターは“真実のフィルター”です。 あなたが私に伝えたい言葉は本当のことでしょうか。 正直に答えなさい。」と隠遁者は厳しく命じました。 隠遁者の厳格な言葉に戸惑った腹黒い狸は、初めて正直に「いいえ、ただある人々からそれを耳にしただけです。」と答えました。

 「そうですか。 それは、それは。 第二のフィルターは“親切のフィルター”です。 あなたが私に言いたいことが真実でなくても、その話はきっと私に良いことをもた らし、私の心を喜びで満たすのでしょう?」と隠遁者は、今度は優しく質問しました。 「えっ! そうですねぇ…あの…その、あの…、はっきり言えば、よいことや喜びをもたらすよりも、きっと怒りを生み出すと思います…。」と腹黒い狸は恥かしくなって返事をしました。

 「そうですか。 まあ、仕方がないですね。 それでは三番目のフィルターを使いましょう。 このフィルターは“有用なフィルター”です。 あなたが言いたいことは、真実ではなく、親切ももたらさないけれども、きっととても役に立つことでしょう?」と隠遁者に聞かれると、腹黒い狸は益々自信を失ってもじもじしながら「僕の話はあなたにとって、全く役に立たないと思います。」と小さな声で答えました。

 「そうですか。 そうであれば、私はその話を聞きたくありません。あなたの話が真実でも、親切でも、有用な話でもないのなら、私はあなたにそれを早く忘れるように勧めます。」と微笑みながら言って、隠遁者は自分の洞窟の奥に入りました。

 私たちは日常生活の中で様々のお知らせや噂話や偽りの話や人の悪口に耳を傾ける傾向を持っています。 そしてまた、私たちはその話を確かめもせず、正しく判断もせず、直ぐに誰か他の人の耳に囁いてしまいます。 その結果、人が傷つき、人の評判を汚し、その上自分自身の立場も悪くなるのです。 「口に入るものは人を汚さず、口から出て来るものが人を汚すのである」(マタイ15,11)とイエスは言われました。 フランスの諺に「話す前に口の中で七回自分の舌を回すこと」と言うのがあります。 つまり、話す前にじっくり考えることを勧めています。 また、真実を言うことが必ずしも良いことだとは限らないので、暫く口を閉じて、知恵を尽くして、人に言いたいことを必ず“三つのフィルター”に掛けて検証しましょう。


                           主任司祭 グイノ ・ ジェラール神父
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