今 月 の こ と ば
2014年9月

ニンジンと卵とコーヒー豆

 ある若い婦人が日常の家事や子供の教育、思いがけない出来事や次から次へと起こる問題のせいで疲れ果て、絶望の淵に落ち込みました。 彼女は自分の母の所へ行って「一つの問題が解決すれば、すぐ新しい問題が襲い掛かって来ます。 私にはもう生きていく力がありません」と泣きじゃくりながら声を詰まらせて、心の悩みをすべて打ち明けました。

 彼女の悩みを聞いた母は、何も言わずに娘の手を取って台所へ連れていきました。 そして三つの鍋に水を入れて、鍋をガスコンロの上に置いてガスを付けまた。 水が沸騰し始めた時に、母親は最初の鍋にニンジンを、二つ目の鍋に卵を、三つ目の鍋に粉にしたコーヒー豆を入れました。 そして、何も言わずに二十分待ってから、母親は一つの皿に煮たニンジンをもう一つの皿に茹でた卵を入れ、出来たコーヒーを深いカップに注ぎました。 そして、娘に向かって「ここに何が見えますか?」と尋ねました。 彼女はすぐに「煮たニンジンとゆで卵と香り高いコーヒーです」と答えました。
 
 そして母親はお皿の中に置いてあるニンジンを触るように娘に言いました。 母親が「何を感じましたか?」と尋ねると、娘は「このニンジンはとても柔らかい、ふわふわしています」と答えました。 次に母親は「卵を取って割ってください」と娘に言いました。 彼女は卵の殻を簡単に割りましたが、卵の身が堅くなっていることに気が付きました。 最後に、母親は娘にコーヒーを味わうように言いました。 彼女はコーヒーを飲み味わいました。 「このコーヒーはとてもおいしいです。ところでお母さん、どうしてこんなことを私にさせるのですか。教えてください。」と尋ねました。 

 「では、よく聴いて下さい。 ニンジンも卵もコーヒー豆も同じお湯の中に置かれても、それぞれのものはお湯に対して違った反応を示しました。 堅くて強いニンジンは、お湯の中で柔らかくなり、ふわふわしています。 結局、強いニンジンはお湯の試練を受けて、とても弱くなりました。 ところが、殻が壊れやすく、中身の流れやすい卵は、お湯の試練を受けて、卵の中身は堅くなりました。 そして、粉にしたコーヒー豆は、同じお湯の試練を受けながら、お湯を変化させて、とてもおいしい風味のある飲み物を作り上げました。
ですから、試練や思いかけない問題が襲い掛かる時に、柔らかいニンジンや固くなった卵でなく、あなたは美味しい風味を生み出すことが出来た、この粉にしたコーヒー豆のようになって欲しいのです」と母親は、真剣に娘に話ました。

 私の書いたこの物語を読むあなたにも、この母親と同じ質問をします。 あなたはニンジンのように、外面的に強くて自信のある人だと思われているかも知れませんが、苦しみや試練があなたに襲いかかるとあっと言う間に、あなたは力と希望を失う人ではないでしょうか。 あるいは、あなたは壊れやすい卵のように、傷つきやすく弱い人だと思われているかも知れませんが、問題にぶつかると外面的にも内面的にも頑(かたく)なで強情な人や頑固な人に変化していないでしょうか。
或いはもしかすると、あなたはこの話のコーヒー豆のような人でしょうか? もしあなたがコーヒー豆のような人であるなら、きっと自分の苦しみや周りの悪い状況を変えることが出来、あなたは自分の良さと素晴らしさを大勢の人の喜びのために発揮できるでしょう。 そうであるならば、神に感謝しなさい。

 私たちが自分の素晴らしさを発揮するために、イエスは私たちに聖霊の力を豊かに与えてくださいました。 「わたしの恵みはあなたに十分です」とイエスは一人ひとりに言っています。 試練の中に置かれているキリスト者は、自分の弱さの内に神の力を体験する人です。 「力は弱さの中でこそ十分に発揮されるのです。 ですから、キリストの力がわたしの内に宿るように、むしろ大いに喜んで自分の弱さを誇りましょう。 わたしは弱いときにこそ強いです」(2コリント12,9-10)と聖パウロは体験に基づいて教えています。 従って、私たちも試練や不幸や思いがけない問題に直面して、嘆きや不満や不平を言わずに、むしろ神の恵みによって、喜んで自分の内にある聖霊の力を発揮して体験しましょう。

              主任司祭 グイノ ・ ジェラール神父
「今月のことば」目次へ
     HOMEへ