今 月 の こ と ば
2014年6月

砂と石

  美しくて、珍しい石のコレクションをしている二人の友は、美しい「砂の薔薇(Sand Rose)」と言う石を捜しながら、歩いているうちに砂漠の奥に入り道に迷ってしまいました。 彼らはミネラルウォータ一を一本しか持っていませんでした。 戻る道を探して歩き廻った二人は、が渇いたのでこのミネラルウォータ一の水を少しずつ飲み始めました。 二人は暑い太陽の下で何時間も歩き続けて、疲れ果て、喉(のど)が渇いてカラカラでした。 二人の友が戻る道を探して歩けば歩くほど益々道に迷ってしまいました。 一人がもう我慢できない状態になって、残っていたほんの少しの生温(なまぬる)いミネラルウォータ一をこっそり飲んでしまいました。 すると直ぐにそれに気づいたもう一人が、非常に怒って彼の顔を強く殴りつけました。
何も言わずに、打たれた人はしゃがんで砂漠の砂に指で「今日、私の一番の友が、私を強く殴りました」と書きました。 それを見て、殴った方の人は、戻る道を諦めずに探し続けようと優しい言葉をかけながら、自分の友に真心から赦しを願いました。

 仲直りをした二人は肩を組み合って支え合い、なお、砂漠の道を歩き続けました。  神は彼らの友情に報いました。 と言うのは、砂漠の小高い丘に登って見渡すと、彼らのすぐ目の前に蜃気楼のように小さなオアシスが現れました。 何とそれは現実のものでした。 彼らは自分たちの疲れを忘れて、大喜びで叫びながらオアシスの方へ走りました。 二人は早速、オアシスの新鮮な水で自分たちの喉の渇きを癒し、歩いてほてった体の疲れを冷やすことにしました。 しかしその時、顔を殴られた人がオアシスの冷たい水の中に急いで入ったので、意識を失って水に沈み始めました。 幸いなことに、彼の友が直ぐに助けの手を差しのべて、彼を掴(つか)んでオアシスの岸まで彼を引っ張りあげました。 彼が本能的に溺れる彼を掴んだので、自分の親しい友の命は救われました。

 救われた人は意識を取り戻してから立ち上がり、そばにあった大きな石に自分のナイフで次のように刻みました。 「今日、私の一番の友が僕(ぼく)の命を救いました」。 それを見て、驚いた友だちは次のように尋ねました。 「私が君を殴った時に、君はそれを砂に書き、そして君の命を救った時には、それを石に刻んだ。 それは、どうしてなんだい?」。 彼は答えました。 「誰かが君に悪いことをしたり、傷つけたりした時、直ぐ砂にそれを書き記しなさい。 すると、必ず風がそれを消しますから。 そして、君もそれらの悲しい出来事や苦しい出来事を全て忘れるようにしなさい。 しかし、誰かが君に対して良いことをした時には、それを石に深く刻んでください。 何故なら、風がそれを決して消すことが出来ないからです。 君も自分の人生の良い出来事を全て、決して心から消さないようにしなさい」。

 ふと頭を上げると、ラクダの群れにオアシスの水を飲ませている男の人が見えました。 この男の人の助けによって、二人は無事に家族の居る場所に戻ることが出来ました。 もっと不思議なことに、彼らがいなかった時に、彼らの妻たちは町の市場の店でとても珍しい大きな、そして美しい二つの「砂の薔薇」を見付けて買っていました。 それを見て、二人の友は大声で笑い、お互いに抱きしめ合って喜びに溢れて踊りました。  

 私たちは毎日、悲しみと喜び、苦しみと幸せ、不信と信頼の間で綱引きが起こり引っ張り合っています。 ときどき友は敵になり、自分自身をコントロールできません。 大きな幸せの時はあっと言う間に過ぎ去り、直ぐに私たちは忘れてしまい、反対に詰まらない、取るに足りない不快な出来事は長く記憶しています。 ですから、物語の友のように、人から受けた様々な傷はすべて砂に書き記すことを学び、忘れるように努力しましょう。 そして、受けたすべての良いことを石に深く刻み、絶えず思い出しながら神に感謝しましょう。 更に、自分の友達のために祈りつつ、神が彼らを豊かに祝福するように願う必要があります。 それは私たちの義務です。

 もし私たちが人々に愛されたいなら、まず、私たちは人々を愛さなければなりません。 そうすれば私たちの人生の砂漠は、必ず新鮮な美しいオアシスとなり、珍しい「砂の薔薇」になるでしょう。

*砂の薔薇(砂漠のバラ)…石膏(せっこう)で構成されているものと、重(じゅう)晶(しょう)石(せき)(バライト)のものが存在します。 砂の薔薇が見つかるのはオアシスが存在していた場所です。 オアシスが干上がる際に、水に溶けていた硫酸カルシウム(CaSO4)や硫酸バリウム(BaSO4)が析出して、結晶が生成します。 その際、水中という妨げのない場所で、結晶は成長していきます。 そして、形態の整った美しい花状の結晶(砂の薔薇)が誕生します。 砂の薔薇は、水と大地と太陽が作り出した芸術品です。

                       主任司祭 グイノ ・ ジェラール神父
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