今 月 の こ と ば
2014年5月

窓の人

  
  重病で苦しんでいる二人の男性は、病院の同じ病室を分かち合って生きていました。  病室はカーテンで仕切られているので、彼らは互いに相手を見る事が出来ませんでした。 一人は、自分の肺に溜まった水を取るために、毎日、午後から一時間位座る必要があるのでその許可を貰っていました。 彼のベッドは病室の窓際に置かれていました。 もう一人の病人は、体が完全に麻痺していたので、一日中ベッドに横たわっていました。 この二人は、何時間も色々の事について話すのがとても好きでした。 家族と子供たちのこと、元気であった時の仕事や住んでいた家のこと、若い時代の思い出や夏休みに過ごした素敵な場所について楽しく、そして長い間二人はよく語っていました。

  ところで、毎日午後から窓の傍に座っていた人は、病室の仲間に窓から見える外の様子を語るのが習慣になっていました。 自分のベッドから、それを聞いているもう一人は、その話から生きる力が受けられると感じていました。 ですから彼にとって、この一時間はとても大切な時でした。

  外の様子を見ていた人の話によると、窓から大きな公園が見え、そこに池があり、鴨と白鳥が泳いでいました。 また、公園を歩く人々や芝生に座っている恋人や子供たちの遊びについて、あるいは公園の花壇や遠くに見える町についても、窓の人は何も見えない同室のもう一人の人に、上手に細かく説明していました。 窓から離れたところにいる人は、いつも目を閉じたまま、窓の人の話に耳を傾けて、語られる様子を想像していました。

  ある日、窓の人は近くに来ている音楽隊のパレードについて詳しく説明しました。  しかし、もう一人の人には、何も聞こえなかったので、不思議に思いました。 しかし、いつもの通り、目を閉じたままその状況を想像しました。 このようにして幸せ一杯の月日が早く経ち次々と速度をあげて通り過ぎました。

  ある朝、病室の担当の看護婦は窓の人が寝ている間に死んでいるのを発見しました。  直ぐに彼の死体は霊安室に運ばれました。 適当な時をおいてベッドに寝たきりの人は、看護婦に自分のベッドを窓のそばに移動して欲しいと頼みました。 看護婦が承諾したので、ベッドで寝たきりの人は非常に喜びました。 ベッドの移動が終わり看護婦は病室を出て行きました。 独りになった彼は、外の様子を見たいと考え、やっとのことで、ベッドから窓の方を見ようとしました。 しかし、驚いた事に彼に見えたのは、ただ真っ白の大きな壁だけでした。  

  看護婦が病室に戻った時に、彼は彼女に尋ねました。 「どうして亡くなった人は、いつも、私に窓から見える素晴しいもの事について話していたのでしょう?」 看護婦が答えました。 「あなたの仲間の方は盲人でした。 その壁さえも見ることが出来なかったのですよ!」 そして彼女は加えて言いました。 「多分、彼は、あなたに生きる勇気を与えようとしたのではないでしょうか!! きっと他の人に幸せを与えようとする人は、自分自身も幸せになるに違いありません。 あなたの仲間の人は、あなたと一緒に居て、幸せだったのでしょう!」

  確かに、人は苦しみや悲しさを分かち合うことで、その苦しみや悲しさは半減されます。 それが“幸せ”なら、他の人に分かち合う幸せは何倍にも拡大します。 あなたは、あなたの心の窓から他の人々と何を分かち合いたいですか?

                         主任司祭 グイノ ・ ジェラール神父
「今月のことば」目次へ
     HOMEへ