今 月 の こ と ば
2014年4月
プラスチックの食器

  男やもめになって、一人で生活が出来ず、老人ホームに入るお金もない年老いた男が自分の長男と彼の妻そして6歳の孫の家に住むことになりました。 この老父は、目が悪くて上手に歩けないし、その上パーキンソン病のために手がずっと震えていました。 長男の家では、皆で一緒に食事をとる習慣がありましたが、この老父にとってそれは苦行でした。 と言うのは、パーキンソン病なので、彼は食べ物を落としてテーブルに散らかし、何かを飲むたびにグラスをひっくり返して、床に落とし割ることが多かったからです。 更に自分の顎(あご)に全く合わない入れ歯であった為に食べるたびに嫌な音を出していました。

  時が経つにつれ老父の長男の妻は、壊れた物の山や汚くなった自分の家を見て段々と苛(いら)立(だ)つようになりました。 長男は父に対する尊敬を失わないために、色々と考えましたが、妻の怒りに負けてしまいました。 「お祖父さんともう二度と一緒に食事しないこと、そしてお皿を壊さないように、全ての料理をプラスチックの食器で出すことにしよう」と長男は決めました。 その日から老父は、部屋の片隅で1人で食事を食べ、別の所では長男と妻と孫が食卓を囲んでいました。 それにもかかわらず、老人は自分のスプーンやパンやナイフなどを落とし続けました。 それを見て孫が急いでそれらを拾って、よく拭いてからお祖父さんに渡していました。

  食事をしながら6歳の孫は、部屋の片隅で一人ぼっちになったお祖父さんの様子をじっと見ていました。 ある日、彼はお祖父さんの目から涙が流れ出ていることに気づきました。 孫は何も言わずにある決心をしました。 仕事から帰った父は息子が何かを書いているのに注目しました。 「何を書いているの?」と聞きました。 子供は小さな声で次のように答えました。 「ぼくは神様に手紙を書いています。 お父さんとお母さんが年寄りになった時に、食べる為の二つのプラスチックの食器を送ってください、と書きました。 そしてプラスチックのスプーンとナイフとコップも頼みました! だからパパ、心配しないでね。 僕は、お父さんとお母さんの未来を考えてきちんと準備しますから!」と。

  これを聞いた途端ショックを受けた父は、自分の妻と相談しました。 彼らのするべきことがよく分かりました。
この夜からずっと毎日、お祖父さんは皆と一緒に食卓を囲んで食事を楽しくいただきました。 すると魔法にかけられたように、その後はプラスチックの食器は消えました。 勿論、以前のようにお祖父さんは食べながら音をたてたり、食べ物をこぼしたり、食器を壊したりしたことはありましたが、家族はそれを気に止めずに、ただお祖父さんが幸せであることだけを願って大切にしました。

  自分たちの幸せのために両親を老人ホームに入れる人が多いです。 パーキンソン病やアルツハイマー病にかかっている人の世話をすることは確かに難しいので、専門家に任せるのは論理的な解決です。 しかし、老人ホームや専門的な施設が、果たして家族が与える幸せを与えるでしょうか。


  ある意味で年寄りたちを老人ホームに入れることは、彼らに「プラスチックの食器」を与えることに等しいです。 温かい家族の雰囲気を超えるものはありません。 家庭が持っている歴史や懐かしい思い出や笑い声の響き、また一緒に耐え忍んだ試練の苦しみや希望や助け合いが年寄りの心の宝物です。 誰にとっても、家族は故郷と同じようにかけがえのない、忘れられない貴重な宝物です。  

  いつか、私たちも年寄りになったら、きっと孤独の生活を避けるように心血を注いで努力し、老人ホームに入らないように全ての可能性を探し求めるでしょう。 もし、あなたが今、年寄りで家族に囲まれて、元気で、愛されているなら、自分の残る日々を過ごす幸せを直ぐに神に捧げて下さい。 そして、この状態が長く続くように切に、毎日、感謝しながら神に願って下さい。 さもないといつか「プラスチックの食器」が、あなたに与えられるかも知れません。

                       主任司祭 グイノ ・ ジェラール神父
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